2019年12月14日に、成年後見人制度について廃棄物処理法の欠格要件の改正があったのはご存じでしょうか?
また、成年後見人制度は、私たちの日常においても「介護」や「相続」という場面で、遭遇する可能性もありますので、
簡単な予備知識として知っておいてほしいと思います。

成年後見人とは
⑴ 成年後見人制度の意義
「成年後見人」とは、成年者であるが判断能力等が不十分な者を保護するために、その者の財産管理のサポートをする者のことをいいます。
未成年者であれば、未成年者を保護するために、通常、法定代理人(親)が未成年者の財産を管理しています。
成年者の場合は、未成年者の場合と異なり、原則として、財産を管理する人はいません。しかしながら、成年であっても加齢等の理由により取引行為について適切な判断が不可能または困難となる場合があります。このような場合、その者の財産を保護するために、裁判所によって「成年後見開始の審判」によって成年後見人(成年者の後見人)を付してもらいます(民法838条第2号)
成年後見開始に審判を受けた者は「成年被後見人」となります。
当該成年被後見人の取引行為については、成年後見人が代理して行うか、もしくは成年後見人の同意がない取引行為は、取り消すことができるとされています(民法859条第1項、第2項)。
たとえば、成年被後見人が、成年後見人の同意のないまま、自宅を売却してしまったような場合、成年後見人はこの売却行為を取り消すことができるとされています。
法はこれによって、成年被後見人の財産を守ろうとしています。

廃棄物処理業の欠格要件改正
⑵ 成年(被)後見制度と欠格要件
成年被後見人であることは、2019年に廃棄物処理法が改正されるまでは、欠格要件とされていました。
つまり、役員等が成年後見開始の審判を受け、成年被後見人となると欠格要件に該当し、会社の許可が取り消されてしまうのです。
たとえば、A社の創業者Bが高齢となったので、社長は二代目に譲り自身は引退したものの、周囲が慮って先代を「取締役」などの名目で残していたとします。そのような状況で、家族が、Bに認知症などの症状が見られるようになり、財産管理に不安を感じたので、成年後見開始の審判の申立てを行って、成年被後見人にしたとします。
ところが、そうするとBは欠格要件に該当し、役員が欠格要件に該当するA社も欠格要件に該当する結果、A社の許可は取り消されることになります。
これは、自身の財産の管理もできないような者(成年被後見人)が会社の経営を適正にできるとは思われないので、この者が会社の役員等となっているときは会社の許可を取り消すという趣旨の法律でした。
しかしながら、会社の財産や適性経営を守るためには、当該成年被後見人を役員から外せば足りるのであって、前述のような事例で会社の許可が取り消されるのはいかにも不合理です。
そもそも成年後見制度は、成年被後見人の財産を保護するための制度であるにもかかわらず、成年被後見人に該当した場合には欠格要件に該当するとすることは、「成年被後見人の保護」という制度趣旨にはそぐわないものでした。
そこで、2019年の法改正により成年被後見人であることは欠格要件から除外されたのです。
処理業と離れて、生活や事業で成年後見制度を考える必要があるときがありますか。その際に注意することはありますか。
生活や事業で成年後見制度を考える必要があるとき
前述のように財産処分の判断能力が低下した場合に、当該者の財産を保護するための制度が成年後見制度ですから、財産の名義人が高齢等の理由により財産処分能力に、不安を感じるようになったときは成年後見人制度を活用することが考えられます。
たとえば、資産家である高齢者Cの判断能力が低下し、適切な財産管理が危ぶまれるような状態になった際に、その親族から成年後見開始の審判が申し立てられ、その裁判所からその資産家に対して成年被後見人とする審判が行われる、というものです。
その場合、親族Dが成年後見人に指定されたとすると、DがCを代理するか、Dの同意がなければCは自身の財産を処分することができなくなります。
仮に、Cが保有するC名義の不動産にCの家族が住んでいた場合、Cに自由な財産処分を可能としておくと、Cがその自宅を誰かに売却してしまい、Cの家族は家を失うかもしれません。
成年後見人制度は、成年被後見人の財産を保護するためのものですが、その家族の財産や生活を守る機能をも有します。
Cが事業を営んでいるような場合は、やはり判断能力に不安がある場合には、後継者を立てたうえで成年後見制度を利用することが考えられます。
注意すること
成年後見制度は相続や事業承継の際に悪用されることがあります。
すなわち、前述の例でCが成年被後見人となった場合、成年後見人に指定されたDが成年後見人であることを悪用し、自己に有利な財産処分をする可能性があります。
不動産を売却するなどの重要事項は、裁判所の許可がないとできないことになっておりますが(民法859条の3)、少額の金額を徐々に自己の有利に処分するなどのケースが考えられます。
成年後見人による財産の悪用を防ぐためには、裁判所に成年後見監督人を付してもらうという方法がある(民法849条)ほか、成年後見、親族、相続人間で定期的に成年被後見人の財産の利用について確認、あるいは協議を行うことが考えられます。
また、成年後見人の財産管理方法に問題があると感じる場合は、成年後見人の解任を裁判所に申し立てることができます(民法846条)。
成年後見制度について詳しく知りたい場合

成年後見制度について詳しく知りたい場合には、各自治体や各地の権利擁護支援窓口(https://www.shakyo.or.jp/knet/k_itiran.pdf)に相談されるとよいでしょう。お近くの弁護士会でも相談を受けています。
監修

芝田 麻里(しばた まり)
芝田総合法律事務所
代表弁護士
環境法、とくに廃掃法が専門。
廃掃法に関する法的トラブル、行政間交渉、事業承継、M&Aなどを手掛ける。
予防的司法を重視。